銭渕の由来
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 三隈川の銭渕は深い渕になっている。そこは苦から魔の渕といわれ、川沿いの人々か
らたいそう恐れられていた。
 足巻きの主が、泳いでいる人を引きずり込むからといい伝えられて、その渕で泳ぐこと
は禁じられていた。それでもそこで泳ぐ人が絶えず、時々おぼれる者がでた。
 その銭渕の由来はいくつかある。ある人は三隈川沿いは上流の大山川や玖珠川から丸
太木を流し、この渕に貯木したものを製材する製材所が多い。また、丸太木のままこの渕
でいかだに組んで筑後川に流していたことから日田の経済と切り離されない。この事から
銭の渕、銭渕と呼ぶようになった、という。
 また、ある人は、真夏に此の渕に潜って両目を見開くと波の動きの為に、川底の石がこ
とごとく昔の一文銭をしきつめたように見えるから銭渕の名がついたともいう。
 もうひとつの話は、昔、寺が火災の時、本尊の阿弥陀仏が焼けるのを避けるため、この
渕の水中に沈めた。それを聞きつけた信者がこの渕に銭を投げてお参りしたことから銭渕
と呼ばれるようになったという。
 このように銭渕には名前の由来がいくつもあり、どの詰も本当のようでもある。
出典
「日田地方の昔ばなし」(NTT日田電報電話局編集委員会)